コロナ禍を経て変わりゆく社員旅行のかたち

企業が行うワーケーションは、休暇活用型や拠点移動型などさまざまなスタイルがある中で、近年さらに多様化が進んでいます。

先日、東伊豆町にて実施された「株式会社野村総合研究所(以下NRI)」と「NRIデジタル株式会社(以下NRIデジタル)」によるワーケーションもそのひとつ。コロナ禍を経て変化したというワーケーションについて、両社の方々にお話を伺いました。

コロナ禍を経て変化した勤務体系、多様化した社員旅行

aaaa コンサルティングやITソリューションなどのサービスを展開するNRIは、社員の考え方の変化や視野の拡大といった効果を目的とする、地方を舞台とした越境学習型研修を2020年より開始しています。一方のNRIデジタルは、NRIグループのデジタルビジネスを専門的に担い、企業のDX実現支援などを行っています。

今回のワーケーションは、NRIのコンサルティング事業本部 AIコンサルティング部の「合宿(社員旅行)」で、その企画やコーディネートはNRIデジタルが担うという、NRIグループ2社による共同プログラムとして実施されました。
これまで同部の合宿は毎年1回、研修と懇親会を兼ねて行われており、部内の幹事が行き先やプランを決定し、行き先はメジャーな観光地、参加者は宿泊先ホテル内の会議室で研修を行い、宴会場で懇親会を行うというパターンでした。

ところが、3年ぶりに実施された今回の合宿は、それとは異なるスタイルになりました。
まず、行き先やプランは幹事ではなくNRIデジタルが決定し、旅行手配も担当。研修会場は、宿泊先ホテルの会議室ではなく東伊豆町役場の会議室を利用し、さらに研修は従来の対面形式に加えて、東伊豆町の会場と東京のオフィスをZoomでつないだリモートワークを併用しました。
このように変化したのには、コロナ禍を経て変わった働き方と、NRIデジタルが行ってきた取り組みが関係しています。

新型コロナウイルスの感染拡大で、合宿は2年にわたり中止となりました。その間に、NRIグループでは「会社に出社」から「リモートワーク」を主体とする勤務体系が生まれ、社員の働き方が変化。それに伴い、リモートワークの効果やその可能性を探る必要性が高まったといいます。

今回の企画・コーディネートを担当したNRIデジタルの河島宏樹さんは、こう話します。
「コロナ以降リモートワークが浸透し、どこでも働ける時代になりました。一方で、社員同士のコミュニケーション活性化は経営課題にもなっていますが、出社率をコロナ以前に戻すことにも難しさがあります。そこで、出社する代わりにさまざまな地域に滞在しながら働くことで転地効果やチームアップを図る、という社内実験をNRIグループで実施しています。その一環として、これまで誰でも知っている観光地で行われていた合宿を、今回は別の地域で実施することになったのです。」

行き先の選定は「いわゆる『関係人口』という視点から行った」といいます。
実はNRIデジタルは、JR東日本の「どこかにビューーン!」やJALの「どこかにマイル」など、いわゆる「ガチャ旅」と呼ばれる旅先をランダムに選ぶサービスを提供しており、ツーリズムを通じて関係人口をつくる地域活性化に取り組んでいます。このことから、河島さんは今回の社員旅行にもこの要素を加えたのだそう。
「行き先がランダムに選ばれるランダムチョイスの目的は、新たな地域との出会いを創造するものです。そこで今回はこちらが選んだ地域へと社員を送り込むことで、関係人口の創出を図りました。」

東伊豆町でのワーケーションを決めた理由とは

東伊豆町の町並み
東伊豆町の町並み

行き先は、数ある候補地の中から東伊豆町が選ばれました。
その理由として、以下を挙げます。

  • 1. 首都圏からは距離があり、普段はなかなか行かない地域であること。
  • 2. 東伊豆町はワーケーション支援や移住促進に積極的に取り組むなど、地域活性のためさまざまな活動を展開しており、関係人口創出という今回の企画の趣旨に合うこと。
  • 3. 合宿は業務の一環であり、レンタカーなどでの移動は禁止されており、すべて公共交通機関で移動できることが必須条件である。東伊豆町へは、新幹線や特急・踊り子号で最寄りの伊豆稲取駅まで行ける上、合宿の実施期間中はオンデマンド交通の実証実験が行われており、乗り放題利用できて観光にも便利であること。
  • 4. 約30名の受け入れが可能な旅館やホテルなどの宿泊施設、宴会場や食事処があること。
  • 5. 定員30名程度で、ネットワーク環境が整っており、長机、イス、ホワイトボード、モニター、電源ケーブルなどを備えたワークスペースがあること。
  • 6. 稲取特産の金目鯛をはじめとれたての魚が味わえる「港の朝市」、全国的にも珍しいみかんを使ったワインを作る「みかんワイナリー」、ご当地グルメ「肉チャーハン」など、東伊豆町ならではの食や体験が楽しめること。

また、東伊豆町のまちづくりアドバイザーである森田創さん、東伊豆町企画調整課の鈴木祥子さんとつながりがあったことも、東伊豆町を選ぶきっかけとなったといいます。

森田さんとNRIデジタルは以前より関わりがあり、②と③については森田さんから事前に色々と情報を得ていたそう。
東伊豆町は近年、継続的に町を訪れる関係人口を増やし地域活性化につなげることを目的に、ワーケーション事業や移住促進に力を入れていること。現在ワーケーションは個人を中心に、口コミなどで多くのリピーターを獲得しており、移住につながったケースもあること。さらに「まちまるごとオフィス東伊豆」という「まち全体をオフィス」に見立て、町内のいたるところで大自然を感じながら働くワーケーションを推進するプロジェクトを行っていることなどを聞き、今回の企画に合うと考えたといいます。
またオンデマンド交通についても、森田さんからの情報で活用することになりました。

④〜⑥については、鈴木さんにおすすめを紹介してもらったといいます。
実は今回の社員旅行に先立ち、NRIのAIコンサルティング部長・石綿昌平さんを含む社員数人が東伊豆町を訪れた際、鈴木さんに稲取を案内してもらったのだそう。親切で気遣いのある鈴木さんのアテンドは、行き先決定の決め手ともなったと、石綿さんはいいます。

ワーケーションの概要

ワーケーションは、2023年11月10日(金)・11日(土)の1泊2日で行われ、NRIのAIコンサルティング部の社員25名が参加しました。

1日目

研修(対面+リモートによるワークショップ)

東伊豆町役場の会議室で行われた研修の様子
東伊豆町役場の会議室で行われた研修の様子

会場は伊豆稲取駅から最寄りで一般料金も手利用もでき、手頃な東伊豆町役場の会議室を利用。Wi-Fi完備で、机、椅子、ホワイトボード、プロジェクター、全員が電源を確保できる電源タップや延長ケーブルなどが借りられます。

ワークショップは、「ChatGTPでどう仕事を変えられるか?」をテーマに、グループワークを実施。合宿参加者25名で行う対面形式と、Zoomにて東京オフィスの15名をつないだリモート形式を併用して行われました。Zoom会議中はハウリングやネットワーク接続の問題もなく、順調に進められたそう。
合宿参加者同士、また東京の部員とも今話題の生成AIの可能性について議論を交わし、充実した研修になったといいます。

懇親会

網元直営・海鮮専門店「徳造丸」にて懇親会
網元直営・海鮮専門店「徳造丸」にて懇親会

東伊豆町により親しめるよう、地元で人気の「網元料理 徳造丸」へ。
自慢の海鮮料理に舌鼓を打ちつつ、久しぶりの合宿で過ごす仲間との時間を楽しみました。

宿泊

稲取銀水荘は全客室がオーシャンビュー
稲取銀水荘は全客室がオーシャンビュー

宿泊先は稲取でも歴史のある温泉旅館・稲取銀水荘。温泉で心身ともにリフレッシュしました。

2日目

東伊豆町観光

稲取港の朝市にて食事を楽しむ
稲取港の朝市にて食事を楽しむ

宿での朝食、チェックアウトを済ませたら、東伊豆町観光へ出発。「港の朝市」で食事をしたり、「みかんワイナリー」ではみかん畑を望む風景を眺めたりと観光を満喫。
オンデマンド交通を活用し、のんびりとした旅を楽しみながら、部員同士の交流を深めました。

ワーケーションを終えて

事前に町を訪れ、合宿にも参加したAIコンサルティング部長の石綿さんは、「『肉チャーハン』や『みかんワイナリー』など、東伊豆町の素晴らしい食や体験を、ぜひ他の社員にも体験して欲しかった」といい、

「肉チャーハン」は東伊豆町の町民が愛するソウルフード
「肉チャーハン」は東伊豆町の町民が愛するソウルフード

「これまでの社員旅行は、研修も食事も宿の中だけで完結してしまうため『旅館に行く』という感じでしたが、今回は町へと出て行く機会が多くあり、『この町に行く』というイメージを持ちました。」

一方、部員の露木浩章さんは、東伊豆町は今回が初めて。しかも町についてはよく知らなかったそう。
しかし訪れてみて自然が豊かで人も温かく、とても魅力的な町だと感じたといいます。
「みかん畑から海を見下ろす景色に感動しました。朝市で食べた金目鯛の釜飯も美味しく、地元の人も観光客も入り混じって食事をし、町の一員になれたような気分が味わえたことは、とても印象的です。友人を連れてきたい、また住んでみたいとも思いました。のどかでいいところですよね。」

みかん畑のある高台からは、海と町を一望できる
みかん畑のある高台からは、海と町を一望できる

また合宿については、「日頃はテレワークが多いため、実際に部員が集まって対面で話し、同じ体験を共有できたのは楽しかった。」と露木さん。東京に残った部員ともリモートでつながり、一緒に研修を行ったことも、仲間意識が高まる良い経験になったようです。

変わりゆく社員旅行にみる可能性とは

地域滞在型テレワークの効果として、「共通体験をして記憶に残ることは、チームアップに効く」と話す石綿さん。またそこで土地の人とのつながりが生まれ、良い体験ができるとまちの「ファン」になり、家族や友人と再訪したり、誰かに紹介したくなるといいます。
実際、石綿さんは事前の訪問で鈴木さんと出会い、町の魅力を知って、東伊豆町がすっかり気に入ったそう。家族旅行でも訪れたいのだとか。

このことから、今回の合宿はNRIデジタルの新井さんのいう「地域を訪れるための『最初のきっかけ』」となり、関係人口創出につながるものになったと考えられます。これは企業活動として、とても意義のあることです。
これを機に東伊豆町を再訪する方や、他の地域へも足を運ぶ方が増えるとともに、より充実した働き方の実現につながることが期待されます。

今回紹介した、社員旅行として合宿を行い、研修にテレワークを取り入れるというワーケーションは、社員旅行の変化型といえます。このような1泊2日の社員旅行をベースとしたスタイルは、ワーケーションに関心はあってもなかなか実現できないという企業でも、実施しやすいのではないでしょうか。

伊豆エリアは観光資源が豊富で、昔から社員旅行にもよく利用される魅力的な地域です。東伊豆町のようにワーケーションサイトを設けていたり、企業のワーケーションをサポートする体制を備えている地域もありますから、実施場所としておすすめです。興味のある企業の方々は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。

東伊豆町 担当者の声

東伊豆町企画調整課 鈴木祥子さん

これまでワーケーションの利用者は個人の方が中心で、今回初めて企業の方々をお迎えしました。それにあたり、町や町の人たちのことを知っていただきたいという思いを込めて、サポートを行いました。
今年、新たな取り組みとして「東伊豆町ファンクラブ『うちっち』」を発足しました。入会金・年会費不要で、町で買い物に利用できるクーポンなど、さまざまな会員特典を受けられます。多くの方たちに東伊豆町のファンとなって、町と、そして全国のファンの方たちとつながっていただきたいです。

東伊豆町ファンクラブ「うちっち」

東伊豆町のファンの方がつながり、集い、語り、東伊豆町と継続的にかかわるためのコミュニティ。
入会金・年会費は不要で、さまざまなファンクラブ特典を用意しています。
詳しくはこちら

東伊豆町ワーケーションサイト「まちまるごとオフィス東伊豆」

東伊豆町では、まちをまるごとオフィスととらえ、大自然の中でのワーケーションを推進。さまざまなワーケーションの形を紹介しています。
https://www.machimarugoto.com

東伊豆町ワーケーション情報

今回利用した施設のほか、東伊豆町でのワーケーションにおすすめのスポットをご紹介します。

東伊豆町役場

1階の会議室は一般の方へも貸し出しており、町民以外も利用可能。今回利用した研修室のほか、100名収容できる大会議室もあります。

  • 所在地:〒413-0411 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取3354
  • TEL:0557-95-1100(代表)
  • 施設設備 ・研修室(30名収容)
    ・大会議室(100名収容)
    [貸出備品]机、椅子、電源コード、プロジェクター、マイク、スピーカー
    [使用料]研修室:¥ 1,320/3時間〜、大会議室:¥ 4,950/3時間〜
    ※東伊豆町民以外の場合

稲取銀水荘

露天風呂付きスイートから和室までさまざまな客室タイプがあり、宿泊プランも会席料理が味わえる一泊二食付きプランや朝食のみが付いたシンプルステイプランなど豊富。客室内にワークスペースを設えたワーケーション向けのコンフォートルームや、研修にも利用できる会議室を備えており、ワーケーションプランも用意されています。

ワークスペースを備えたコンフォートシングル
ワークスペースを備えたコンフォートシングル
  • 所在地:〒413-0411 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取894-6
  • 施設設備
    ・コンフォートシングル42㎡ 和室(セミダブルベット1台)+ワークスペース
    ・コンフォートツイン 52㎡ 和室(セミダブルベット2台)+ワークスペース
    [室内設備]デスク、椅子、デスクライト、Wi-Fi、ソファ
    ・会議室/多目的会場 桃山(50名収容・約138㎡)
    [貸出備品]机、椅子、スクリーン、プロジェクター、マイク、スピーカー
    [使用料]1人:¥1,100/3時間、20名:¥22,000/3時間
    *利用者 1名につきミネラルウォーター 1本サービス
  • HP:https://www.inatori-ginsuiso.jp

EAST DOCK

海を一望できる港のシェアスペース。会議のほかイベントでも利用でき、貸切も可能。事前予約制のため、ご利用の際はメールにてお問い合わせ、または予約サイトよりご予約を。

海に面したカウンター席のほか、小上がりの着座席も
海に面したカウンター席のほか、小上がりの着座席も
  • 所在地:〒413-0411 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取894-6
  • 施設設備
    ・1F:BRESTスペース、WEB BOOTH(個室ブース)
    ・2F:THINKスペース、BREAKスペース(キッチン設備あり)
    [備品等]Wi-Fi、ホワイトボード、共有文具、ケトル、電子レンジ、プロジェクター(無料・要予約)、キッチン(有料・月額)
  • 利用料金
    ・ドロップイン:¥1,650/時間
    ・定期会員:¥11,000/月、66,000/年
    ※貸切プランや法人会員(要相談)などもあり
  • HP:https://www.dai6kitchen.com/eastdock
  • 問合先:inatori.eastdock@gmail.com
  • 予約サイト:スペースマーケット

観光スポット

東伊豆まち 港の朝市

東伊豆町でとれた新鮮な魚介や野菜、果物などを販売。名物・稲取キンメの釜飯や味噌汁は自慢の逸品。

GKWINERY みかんワイナリー

みかんやニューサマーオレンジなど、伊豆半島で採れた果実を贅沢に使ったワインを製造。

販売コーナーでは試飲もできます
販売コーナーでは試飲もできます